No.035 営業パーソンに法律の知識はいらないのか?パート2

前回(営業パーソンに法律の知識はいらないのか?パート1)の記事では、売買契約とそれに関連して債権、債務についてお話ししました。

今回パート2でも、引き続き「債務」に注目して解説します。

 

法人間で売買契約が成立すると、両社それぞれに「債務」および「債権」が発生する事をご説明しました。

営業パーソンの皆様にとっては、自社の商品・サービスを利用するお客様が債権者という立場になります。

それを踏まえ、債権を履行(完了)することがどういうことが詳しく見ていきましょう。

 

決済取引

まず、決済支払いについて確認しておきます。

決済とは、金銭等によって支払いを行い金銭上の債務や債権を清算(解消)することです。言ってみれば、「状態」を示す言葉です。

一方、支払いは、厳密には代金の受取人(債権者)へ支払いの指示の伝達であり、決済を起動させる「行為」です。

法律的には、弁済(法律用語)という言葉が、決済の完了を意味し債権あるいは債務を消滅させた状態をも表します。

 

一般的には、決済行為は支払い行為とほぼ同等と考えて問題ありません。

ですが、ここでは敢えて決済および支払いの関係を見てみましょう。

金銭による支払いの場合には、実際の受取人口座への振り込み完了を持って決済が完了します。

支払い作業をした時点では振込み自体は未実施の状態ですので、支払い完了と決済完了の間に時差が生じます。

つまり、決済(の完了)にはリスクが伴うことがわかります。主に、下記2つのリスクが挙げられます。

  1. 信用リスク
    • 受け取れると期待していたお金を現在および将来のいかなる時点においても受け取れなくなる可能性。具体的には、倒産など。
  2. 流動性リスク
    • 将来時点ではお金を受け取れるかもしれないものの、自分が使いたいタイミングまでに相手方からの支払いが行われず、その結果、自分の債務の支払いが困難になる可能性。

 

このことから、決済の手段もよく理解して選択しなければいけないことがお分かりいただけるはずです。

BtoB、すなわち企業間の売買取引を想定してお話をしておりますが、個人間においても当てはまります。

 

決済(の完了)のための支払い手段

では、具体的にどのような決済の手段があるでしょうか?

下記が代表的な手段となります。

  • 金銭・現金
  • 銀行振込・口座振替
  • クレジットカード
  • 手形 
  • 小切手 などなど

 

この中でも、特に法人間の取引の場合にまだ利用されている「手形」に注目してみましょう。

 

手形

まず、「手形」とはどういうものでしょうか?

手の形をした何かに由来するのでしょうか?

(前回の反省として、由来を追い求めると歴史の深みにはまり話が発散してしまうので今回はざっくりと簡潔に解説するにとどめます。)

12世紀にイタリアおよび日本でも原型となるシステムが既にあったようですが、特に日本では文字通り何かを約束する時にその証拠として手の形を押したことから始まったようです。

通貨による取引はその量が増えれば重量が重くなり取扱いに手間がかかります。遠隔地間の取引となればなおさらです。そのため、利便性を高める手段として生み出されたわけです。

 

この手形には、「約束手形」「為替手形」の2種類があります。

約束手形は、相手方と取り決めた金額を一定の期日に支払うことを交わした証書、または有価証券のことです。

一方、為替手形は、実際の支払いを行う第3者が入った形で、発行者(債務者)と受取人(債権者)との間で一定の期日に支払うことを交わした証書、または有価証券を指します。

ここでは、一般的な商取引で主に扱われる約束手形についてお話しします。

まずは、約束手形がどのように使われるのか手形取引の流れを見てみましょう。

一般的に、手形ではなく、請求書による掛け取引が成立する場合は、

  1. 納入企業支払企業に対して、商品やサービスを提供する
  2. 納入企業が支払企業に対して、代金の請求書を発行する
  3. 請求書の支払期日までに支払企業が納入企業の指定口座へ入金する

という流れで取引が行われます。

 

これに対して手形取引の場合は、

  1. 「受取人(債権者、納入企業)」「振出人(債務者、支払企業)」に対して、商品やサービスを提供する
  2. 「振出人」は、「受取人」に手形を振り出す
  3. 「受取人」は、「受取人」の取引銀行に対して手形を呈示(取立依頼)する
  4. 「受取人」の取引銀行から「振出人」の取引銀行に手形交換所を介し手形が交換される
  5. 「振出人」は支払期日までに、「振出人」の口座に手形の金額を入金しておく
  6. 「振出人」の取引銀行から、「受取人」の取引銀行へ手形の金額が送金される
  7. 「受取人」の取引銀行から、「受取人」の口座へ手形の金額が支払われる

では、なぜこのような面倒な取引方法が使われるのでしょうか?

一つには、請求書による掛け取引(信用取引)に比べてより支払期日を遅らせることができるため企業の運転資金繰りが楽になることが上げられます。

請求書による支払いの場合は、「末締めの翌々月払い」のサイトで支払わなければならなくなります。

下請代金支払遅延防止法(通称、下請法)という法律で定められた、取り決めによる支払い期日が納品日から最大60日、かつ出来る限り短い期限にしなければならないという規定があるためです。

手形取引にした場合は、この法律に該当しないため期日を更に遅らせることができるというわけです。

ただ、受取人からすると、手形取引は支払いまでの期間が長引くので資金繰りに苦慮します。

二つめの理由は、受取人にとっては掛け取引よりも手形取引の方が支払いの確実性が高くなるからです。

振出人視点でも、手形の不渡りをおこすと取引銀行から取引を停止されるリスクが高くなるため、手形を利用していること自体が逆に社会的信用があることを示せます。

 

日本では、大企業を中心に手形取引を支払い条件にしてる企業がまだまだ少なくありません。

新たに大手企業との口座を開設しておきたい取引企業にとっては、経営判断として手形取引の条件を飲まざるえない場合もあるかもしれません。

ただ、銀行には「ファクタリング」というサービスがあり、数%程度の手数料を支払うことで支払い期日から前倒しして手形を現金化できますので覚えてきましょう。

 

以上、手形取引について解説しました。

立場によってメリット、デメリットがあることが分かりました。

営業パーソンとしては、これらを踏まえて少なくとも重要顧客について現在の支払い条件を始めとする取引状況を把握しておくと良いと思います。

そこに顧客との交渉材料が眠っている可能性もありますから。

 

まとめ

今回は、前回の続きとして「債権」に関する、特に決済に注目してお話ししました。

決済の一つである手形取引についてお話ししました。

営業パーソンであれば、積極的に顧客企業の支払い条件を把握して、取引価格の交渉の際に有利な支払い条件を引き出すことで自社の資金繰りに寄与することも考えられると、会社の中でも存在価値が高まり有難がられるはずです。

次回は、3部作パート3として、「営業秘密」と纏わる法律についてお話する予定です。

 

今回も、最後まで読んで下さり有難うございます。

 

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