No.025 リスニング力 – 確実に成果を出し続けている営業パーソンが持っている3つの重要なスキル ミニシリーズ第2弾
前回の記事から3回に渡って営業パーソンが持っている3つの重要なスキルについてミニシリーズ形式でお送りしております。
今回、第2弾のテーマは「リスニング力」。
リスニング力とは? ヒアリング力とはどう違うのか?
まず、言葉について少し解説します。
ヒアリングとは、英語で「Hear(聞く、聞こえる)」の進行形の「Hearing」は、訳して「聞いている状態」という意味です。これを意訳すれば、「聞き取り」という意味でつかわれる和製英語です。
「Hear(ヒア)」は、本来自然に耳に入ってくる、聞こえてくるという意味があるのに対して、「Listen(リスン)」は、自ら耳を傾けて意識的に集中して聞くという意味になります。
それを踏まえると、今回のテーマでは、「Listen(リスン)」の方がより相応しいか思います。
改めて、リスニング力とは相手から「話を引き出す力」となるでしょうか。耳を傾けて聴くわけですから、それ自体能動的な姿勢が含まれています。
そうであれば、営業パーソンのスキルとしては、顧客から「必要な情報を引っ張り出す力」と言えます。
リスニング力を最大限発揮させるための3つのポイント
この、リスニング力を最大限発揮するには3つのポイントがあります。
1)事前に適切な質問をすべくシナリオを組む
2)あくまで相手を主として会話を進める
3)相手に具体的にイメージしてもらうため同環境の事例を用意する
では、それぞれについて見て行きましょう。
1)事前に適切な質問をすべくシナリオを組む
リスニング力を発揮するためには、やはり十分な準備を必要とします。
以下に示す2つの有効な手法を用いることで、限られた面談の時間の中でそれらの効果を発揮させ、提案そして成約にまで進める可能性を高めることができます。
i )ABCDT情報の取得
ii )SPIN話法
では、それぞれについて解説します。
i )ABCDT情報の取得
まず、1)のABCDT情報とは、お客様から得るべき5つの情報です。そして、アルファベットはそれら情報の英語の頭文字を表します。
営業にとって、お客様から聞き出さねばならない情報は、ソリューションを採用する必要があるような喫緊の課題を持っているのかどうかを判断するための情報と言ってよいので、おのずと聞き出すポイントは見えてくるはずですね。
中でも特に引き出したい情報には以下の3つがあります。
1)A:解決すべき課題の有無(Application = ニーズを解決する方法)
2)T:課題解決の喫緊性、デッドラインの有無(Timeline = 締め切り、デッドライン)
3)B:予算の確保状況(Budget = 予算)
尚、Cは、(Competitor、競合の意)のC、Dは(Decision Maker、意思決定者、購買決定責任者の意)のDとなります。
仮に、お客様が5分しか面談時間を頂けないと考えた場合、どの情報が重要でしょうか?
やはり、お客様にそもそも課題があるかどうかは次の営業活動を考える上では重要でありかつ最低限の情報のはずです。なんとしてでも5分の会話の中で得なければなりません。その意味で、A:解決すべき課題が最重要の情報となります。
次に重要になるのはどうでしょう?
競争原理の働く市場で生き残るためには、スピードが重要な要素であることは疑いの余地はありません。とすれば、課題解決にT:喫緊(きっきん)性があるかどうかが次に重要になるはずです。
予算は、もちろん確保していることが分かればその先提案に向けて話が進めやすいことは間違いありません。ただ、喫緊性つまり時間的制約の中で課題解決をしなければならないという重要度かつ喫緊度が高ければ予算をその時に確保しに行くことでクリアできる可能性があると考えれば、B:予算は、3番目といえるでしょうか。
その他、購買決定責任者(必ずしも決裁責任者とは限らない)、競合情報なども自社の提案を採用してもらう上では重要な要素です。これらについては、別の記事で詳細をお話しすることがあるかと思いますので、ここでは詳細は割愛致します。
ii )SPIN話法
まず、お客様から得るべき情報について触れました。次に、それと同じくらい重要なこととして、どのような順序でどのような質問をして必要な情報を得ていくかその手法についてお話ししましょう。
このテクニックのポイントは、「お客様自身に重要な課題に気付いてもらう」ことにつきます。
このことが、営業にとってインパクトのある効果的なソリューションを提案する近道になります。もちろん、お客様自身にとっても問題解決への近道となりお客様の事業へのビジネスインパクトを期待することに繋がります。
そのために、4つの目的を達成するための4つの質問をお客様にぶつけるのがSPIN話法です。
4つの質問とは、以下の通りです。
- S:状況質問(Situation = 状況、境遇、情勢 の意)
- 目的: 現状を理解する
- P:問題質問(Problem = 問題、悩みの種 の意)
- 目的: ニーズの明確にし、気づかせる
- I:示唆質問(Implication = 示唆、含意 の意)
- 目的: 問題の重要性を認識させる
- N:解決質問(Needs-payoff = 課題解決によるインパクト の意)
- 目的: 理想の状態をイメージさえる
Sの状況質問
まず、Sの状況質問では、商品・サービスの販売状況や事業全般の現状を把握するための質問です。この段階ではオープンな質問を投げ掛けます。
しかし、この時点ではお客様が質問攻めを受けることも多く、場合によっては事実を伝えようとしなくなるリスクも潜んでいることは知っておかねばなりません。
そのためにも事前の情報収集を怠らず面談時にで出来る限り質問を少なくし、次の問題質問に移っていくよう心がけましょう。
いくつか、質問例を下記に示しておきます。
現在販売している商品の販売状況は如何ですか?
その製品の販売の歩留まりについては如何でしょうか?
製品の品質が差別化要因と聞いておりますが、市場での受け止めはどうですか?
などなど。
Pの問題質問
ここでは、Sの質問の中から自社にとっても筋のよいと思われる問題を浮き彫りにしていく必要があります。顕在化している問題ではなくお客様も気づいていない問題を引き出す質問を投げかけていきたいところです。
それにより、次のステップにある示唆質問の裏返しでもある潜在ニーズを導き出すことになるわけです。
経験の浅い営業パーソンは経験を積んだ営業パーソンに比べて問題質問を投げかけることは少ない様です。また、経験を積んだ営業パーソンほど、面談の早い段階で問題質問を投げかけます。
以下に、問題質問の例をあげてみます。
「製品の返品率を下げる上で阻害要因はなんですか?」
Iの示唆質問
Implicationの質問は、非常に営業にとって強力な質問です。問題質問(P)と異なり示唆質問は経験によって進化する物ではありません。多くの営業パーソは慣れてくるとお客様の抱える課題とソリューションに関連性を見出せるようになります。
ただ、ここで留意すべき点があります。往々にして経験を積んできた営業パーソンは課題とソリューションの紐づけができたと思った段階で、お客様の気づきが不十分であるにも関わらずソリューションを提案しようとします。
そうではなく、お客様自身が問題を放置しておくことのインパクトについて議論し、充分に認識して状況を変えなければ不味いと考えるに至るまで誘導する必要があります。
そのように思わせる示唆質問の例としては、以下のようなものがあります。
「返品率の上昇は市場にいる競合を決定的に有利な状況もたらしますか?」
Nの解決質問
Needs-payoffの質問は、課題解決策によって得られるビジネス価値、重要性、便益についての質問となります。
また、お客様自身によって明快な課題が説明されそして提案されるソリューションでどのようなビジネス価値について納得感を持ってお客様自身の口から説明されるような質問でなければなりません。
例えば、以下のような質問が考えられます。
「貴社の製品の返品率を下げることが出来た時の削減コストはどれくらいですか?」
「その実現により、市場での商品・サービスに対する評価はどのような影響を受けるでしょうか?」
ここまで、事前準備の一環で、課題解決によるインパクトをお客様から引き出すための一連の想定質問についてお話ししました。
2)あくまで相手を主として会話を進める
これについては、直前にお話ししたSPIN話法の活用を踏まえると当然と言えます。
従来のセールストークばかりの営業パーソンからの脱却が必須と言われる現在では、お客様を主として会話を導く「聞き役」に徹する姿勢は基本中の基本であることは忘れてはなりません。
その中でも、お客様の話を聞きながら「なるほど、きっとそれはそういうことにちがいない」と早合点して決めつけたり、「その状況ならまず買ってくれる可能性は低いだろう」と自分で勝手に判断してしまうと、そこで自ら成約の機会をつぶしてしまいかねません。
ですので、自分の考えは一旦脇に置いて、お客様の話を集中して聴くことが大事になります。
3)相手に具体的にイメージしてもらうため同環境の事例を用意する
リスニング力を発揮するための3つ目のポイントは、2つ目までのポイントを実践することで得たお客様の課題をどう解決できるのかを具体的にイメージしてもらうために、お客様の置かれた環境に近い事例を用意しておくことです。
せっかく、重要な課題そしてその解決により得られるポジティブなビジネスインパクトまでお客様自身に認識させることができているのに、それで終わりにするのでは勿体ないでしょう。
同じような境遇に置かれている企業が他にもあるんだと思わせる事例・データを示すことができれば、そのお客様にとっても解決のイメージが湧き、同士の存在に共感や安心感さえも覚えるにちがいありません。
そして、自社の課題解決にしっかり取り組んでいこうという前向きかつ真摯な姿勢になっていくはずです。
以上、3つのポイントについてお話ししました。
まとめ
この記事では、3回に渡って営業パーソンが持っている3つの重要なスキルの第2弾として「リスニング力」についてお話ししました。
初めに、言葉の定義やヒアリングとリスニングの違いについて解説しました。
そして、営業パーソンにとっては「リスニング力」とは、顧客から「必要な情報を引っ張り出す力」であることをお話しました。
次に、リスニングの力を最大限発揮するには3つのポイントがあることをお話しし、それぞれについて詳細に解説しました。
1)事前に適切な質問をすべくシナリオを組む
2)あくまで相手を主として会話を進める
3)相手に具体的にイメージしてもらうため同環境の事例を用意する
全体を通して、顧客自身の口から問題を放置せず真摯に解決にむけて取り組む必要があると認識してもらえるように、的確な質問によりその意思表示の言質を引き出すことがリスニング力を発揮したことになることをお伝えしました。
次回のミニシリーズ第3弾は「ロジカルに考える力」についてお話しします。
今回も、最後まで読んで下さり有難うございます。