No.063 案件が価格競争になる前にすべき3つのポイント – 本編1

案件は競争になるとは?

まず、案件が競争になるという状況について考えてみます。

そもそも「案件が存在する」とは、売り手にとっては、自社の商品・サービスをソリューションとして販売する機会が存在するという意味です。

買い手にとっては、明らかに解決しなければならないと認識している課題が存在するという意味になります。

買い手の顧客が持つ課題を解決する方法は、「課題」をどう捉えるかによって変わってきます。

顧客は、どのような時でも限られた制約条件の中で、投資対効果(ROI:Return on Investment)を出来る限り最大化する方法を模索しますので、当然、様々な情報を収集し比較検討します。

  • 投資・・・新たな商品・サービスや設備導入費用、技術・知識習得費用、運用上成果を出せるまでの利害関係者への説明・業務フロー構築に掛ける時間コスト、旧商品・設備の売却・廃棄費用、など
  • 効果・・・投資の結果生じた業務効率や歩留まり向上など生産性向上を費用換算したもの

同時に、ソリューションを提供する側の各社は、顧客とのコミュニケーションによってこのROIを最大化して顧客にビジネス上のプラスの効果を提供し、満足してもらうことができるかどうかを見極めます。

この各社の営業リソースによるヒアリング過程から、顧客が最終的に複数の選択肢から1つのソリューションを選ぶことになるため案件、販売の機会は競争となるわけです。

 

案件が競争にならないケースはある?

様々な状況に起因して案件、つまり解決すべき課題は生じます。

また、過去の実績、課題の特殊性、時間的制約、縁や人脈など様々な条件によって特定のソリューションでしか解決しえない案件も少なくありません。

なんらかの条件が特定の企業に優位に働くことで競争にならないか、競争になっても圧倒的に優位に成約にこぎつけることができる案件はあります。

 

ただ、その状況を意図的に作れるかどうかは、営業パーソンにとっては「運」の要素が強いかもしれません。さもなくば、そのような状況を戦略的に作るには少なくとも数カ月以上の時間を掛ける必要があるからです。

営業パーソンは、数十社から百社以上の顧客群を抱えていることが多いことが一番の理由です。

仮に対応する企業数が少なく一つの企業に多くの時間が掛けられる場合でも、営業パーソンという一個人が、世の中、顧客企業内、自社内そして自分の人生のあらゆる変化の兆しや、変化を受けて生じた課題の解決に取り組もうとする企業内のあらゆる動きを漏れなくで把握することは困難です。

 

実は、案件そのものが生まれにくい土壌がある

ここで、話がそれるようでそれないのですが、生物学の用語で「ホメオスタシス(恒常性維持機能)」という言葉があります。

ヒトを含め生物全般が持っている、変化すること自体を避けようとする習性のことをホメオスタシスと言うそうです。

数十万年以上の長い長い年月を経て生き残った現在の種の一つヒトも獲得した本能・性質の本質的な要素の一つ。

一方、高々ここ500年の間に発展してきたビジネス(資本主義経済)は、ざっくり言えば理想と現実のギャップを如何に埋めるか、あるいは今以上に付加価値を更に乗せられるかで成り立っているしくみと言えます。

そう考えると、未来は過去の延長線上にあるつまり予測可能であってほしいと本質的に期待するヒトが、世の中、環境の変化で次から次へと生じる変化に適応していく、つまり変化によって生じるギャップを埋め続けることで企業をそして人々の生活を存続させようとしているのは、逆のベクトルが同時に働いている状況にあるといってもおかしくありません。

この前提に立って考えてみましょう。

仮に企業にいる社員あるいは経営陣の誰かが解決すべき課題を認識してから解決に向けた取り組みを始めるとします。

すると、この取り組みに関わる利害関係者は事業活動として取り組むべきであると合理的には理解する一方で、上記で説明したホメオスタシスの行動原理が個々人の程度により解決の方向の思考・行動になるか逆方向の思考・行動のいずれかに分かれます。

また、どのような変化なら許容するのかしないのか、個々人の影響の度合いつまり個々人の職務上の立場そして個人的な立場に照らし合わせてROIの算段が働きます。

これが、いわゆる組織力学が働くということそのものなわけです。

 

購入を決定する要件を漏らさず把握することが、競争させないことに繋がる

営業パーソンとしては、このような背景を理解した上で、限られた制約の中で情報収集するだけでなく仮説を立てて分析・判断することが求められます。

その中で、営業パーソンが注力すべき事の一つがROIを最大化しうるソリューションを選択する上でどのような「要件」が判断材料になるのかをしっかり聞き出し把握することです。

更に言えば、この要件の中に自社にとって有利になりうる「要件」を加えることが顧客のROIをより良いものにできると顧客を納得させることが競争を優位にします。

そのため忘れてはならないアクションは、以下の3点です。

  • 窓口の担当者から漏れなく要件を引き出す
  • ラインマネージャーと担当者の認識する要件が一致していることを確認する
  • 顧客上長を引っ張り出すために自分の上長を利用する

顧客が新規または新規に近く信頼関係が薄い顧客の場合は特にこの3点にまずは注力することが望ましいと考えます。

その上で、どのように顧客に質問をするのか想定問答を練って面談に入ることが重要であり、自社をより優位にする有効な行動となるはずです。

ここで上長を利用する理由は、①顧客の前で上長からテクニックを盗む良い機会になるから、②成約率を高める、或いはアップセルを狙うために他のリソースを巻き込ませるための説得の訓練にもなるからです。

これは、自分自身以外をすべて「お客様」と考えて自分の進めたい方向に進む上で人に納得感を持って関与してもらうためにどのような準備が必要なのかを試行錯誤する取組みにより学び、快く協力してもらう術をより洗練させることで案件を成約させる率を高めることに繋がります。

この試行錯誤が出来る機会は実はそれほど多くありません。

成約率が上がらない、ターゲット達成の波がある、という状況が続けば営業パーソンにとっては居心地の良いものではありませんし、周囲や上長が見逃してくれ続けることはないはずです。

この失注率を上げることに繋がる取組みは、弛まず続ければ後々必ず効果が表れるものです。

 

もう一つ欲張って言えば、自社のソリューションが顧客ニーズを満たせるかはもちろんですが、自社商品・サービスにこだわらず顧客の課題を解決するお手伝いをするかどうかが長期的にも失注率を下げ、リピート案件を増やす要因にもなるはずです。

これにより、顧客社内に営業パーソンの仲間が増え、そのような仲間のどっちに転ぶか分からない利害関係者の変化に対する免疫力を高めることになり、課題解決によって自身に降りかかりうる大きな変化にもより前向きに受け入れようとする方向で思考・行動してくれるようになることが期待できるのです。

 

まとめ

今回は、案件が価格競争になる前に取り組むべきポイントの1つめ「仕様要件の漏らさず把握する」をテーマにお話ししました。

文字通り、競争にならないためには、競合に先駆けてどのような判断で購入先を決定するのかその要件を漏らさず聞き出すことだとお話しました。

また、営業パーソンにとってより重要なことは、自社にとって有利になりうる購入を決定する「要件」を顧客が考える要件に加えてもらうよう、顧客自身が考えている要件を漏らさず引出しつつ、更に自社に有利な要件を加えてもらうよう納得させることだとお話しました。

これら実現のために、上長や社内の知恵も得つつ質疑応答を事前に準備しておく必要があることをお話ししました。

 

次回は、「2.仕様要件の精度」についてです。

 

今回も、最後までお読み下さり有難うございます。

 

この記事をシェアする